介護の人手不足|見学で職員体制をどう見るか
見学の帰り道。車の中で、口には出さんかったけれど、ずっと引っかかっていること。
「ここ、職員さんは足りとるんやろか」
聞きたい。でも、聞きにくい。失礼にあたるんじゃないか、答えにくいことを聞いてしまうんじゃないか。そう思って、飲み込んだまま帰ってきた。。。そんなご家族は、決して少なくないと思います。
大将は、この質問こそ聞いてほしいと思っています。だって、ご家族が本当に気にしているのはそこですから。
ニュースでは「介護は人手不足」と繰り返し流れてきます。では、その言葉の中身は実際どうなっているのか。そして、パンフレットには書かれていない「人の手」を、ご家族はどこまで確かめられるのか。公的な資料で分かる範囲を、正直に整理してみました。
「人手不足」の中身を、数字で見てみる
まず、全国の状況です。厚生労働省は令和6年7月12日に、各都道府県が推計した介護職員の必要数を公表しています。それによると、必要な介護職員は「2026年度には約240万人(+約25万人(6.3万人/年))、2040年度には約272万人(+約57万人(3.2万人/年))」とされています。2022年度の介護職員数は215万人ですので、たしかに大きな増加が必要とされている状況です。
一方で、働いている人の動きを見ると、少し違う面も見えてきます。公益財団法人介護労働安定センターが令和8年7月29日に公表した「令和7年度 介護労働実態調査」では、訪問介護員と介護職員を合わせた2職種の離職率は12.4%で横ばいとされています。同じ資料には、厚生労働省「雇用動向調査」との比較として「令和6年の『全産業』の入職率は 14.8%、離職率は 14.2%となっており、最近3年間の介護労働者の離職率は全産業に比べ低い水準で推移している」と記載されています。
つまり、「人が足りない」ことと「人がどんどん辞めていく」ことは、同じではないということです。ここ、大将はけっこう大事なところやと思っています。
| 項目 | 数値 | 出典 |
|---|---|---|
| 2026年度に必要な介護職員数 | 約240万人(2022年度は215万人) | 厚生労働省(令和6年7月12日公表) |
| 従業員が不足と回答した事業所 | 65.8%(前年度65.2%) | 令和7年度 介護労働実態調査 |
| うち介護職員が不足 | 69.8% | 同上 |
| 2職種の離職率 | 12.4%(全産業は14.2%) | 同上/厚生労働省「雇用動向調査」令和6年 |
| 「定着率は低くない」と回答した事業所 | 73.1% | 同上 |
※介護労働実態調査は公益財団法人介護労働安定センターによる調査です。政府統計とは別のものですので、数値は調査名と時点をあわせてご覧ください。
不足感がもっとも高いのは訪問介護員で82.9%です。在宅で訪問サービスを使っているご家族と、施設を探しているご家族とでは、同じ「人手不足」でも状況が違うということになります。
「3人に1人」は、常に3人に1人という意味ではない
施設を調べていると「3対1」という言葉が出てきます。ここは誤解されやすいところなので、丁寧にいきます。
これは人員配置基準と呼ばれるもので、たとえば特別養護老人ホームの基準を定めた省令には「介護職員及び看護職員の総数は、常勤換算方法で、入所者の数が三又はその端数を増すごとに一以上とすること」と書かれています。
ここで大事なのが「常勤換算方法」という言葉です。これは、職員の延べ勤務時間を常勤職員1人分の勤務時間で割って人数に直す計算方法です。つまり3対1とは、1か月分の勤務時間をならしたときの人数の比であって、「いつでもフロアに入居者3人につき職員が1人いる」という意味ではありません。日中は職員が多く、夜間は少なくなるのが通常です。
グループホーム(認知症対応型共同生活介護)は、厚生労働省の資料で次のように整理されています。
| 項目 | 基準 |
|---|---|
| 1ユニットの定員 | 5人以上9人以下 |
| 介護従業者(日中) | 利用者3人に1人(常勤換算) |
| 介護従業者(夜間) | ユニットごとに1人 |
| 計画作成担当者 | 事業所ごとに1人以上(最低1人は介護支援専門員) |
| 管理者 | 3年以上認知症の介護従事経験があり、厚生労働大臣が定める研修を修了した者が常勤専従 |
(出典:厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会 第218回 資料4)
夜間は「ユニットごとに1人」が基準です。定員が9人のユニットであれば、夜はその9人の暮らしを1人で見る体制が制度上の最低ラインということになります。3ユニットで同じ階に隣接しているなど一定の要件を満たす場合に、例外的に夜勤2人以上へ緩和できる仕組みもあります。
ですから見学のときは、「職員は何人いますか」よりも、時間帯を区切って聞くほうが実際の姿に近づきます。
- 「いま、このフロアには職員さんが何人いらっしゃいますか」
- 「夜間は何人体制ですか」
- 「早番・遅番の入れ替わりは何時ごろですか」
数字の大小そのものより、こうした質問に淀みなく答えてもらえるかどうかを見るほうが、ご家族にとっては手がかりになると思います。なお、配置が手厚いことと、ケアの中身がよいこととは、別々に確かめるべきものです。基準はあくまで最低ラインを定めたものだからです。
見学の前に、公表されている数字を見る
ここからは、もっと気楽な話です。「聞きにくい」と感じていることの多くは、実は見学に行く前に調べられます♪
介護保険法に基づき、平成18年4月から「介護サービス情報の公表制度」が始まっています。各事業所は直近の事業所情報を都道府県に報告することになっており、公表される基本的な項目には「従業者に関するもの」が含まれます。事業所運営にかかる各種取組として「サービスの質の確保への取組」「相談・苦情等への対応」「その他(従業者の研修の状況等)」も公表されます。
つまり、職員の人数や研修の状況は、見学に行く前からインターネットで見られるということです。使い方は介護サービス情報公表システム|見学前の調べ方にまとめていますので、あわせてご覧ください。
先に数字を見てから見学に行くと、質問が具体的になります。「職員さんは足りていますか」ではなく「研修はどのくらいの頻度でされていますか」と聞けるようになる。聞かれた側も答えやすくなります。
見学そのものの着眼点はグループホーム見学、大将が見てほしい5つの点に、施設の種類ごとの違いは介護施設の種類と違い|特養・老健・GHの選び方に書いています。
松山では、どうなっているか
さて、ここからが大将の地元の話です。
松山市が意見募集の際に公表した「第9期松山市高齢者福祉計画・介護保険事業計画(案)」(計画期間は令和6年度〜令和8年度)では、重点施策の一つに「地域包括ケアシステムを支える人材の確保及び介護現場の生産性向上」が掲げられています。
その中では、市が行ったアンケート調査について「現在利用している介護保険サービスに、『満足している』と『一部は満足している』を合わせると97%と高い満足度が示されています」と記載されたうえで、さらに満足度を高めるために「人材の確保と養成」によるサービスの質の向上が必要だとされています。また「介護現場での業務仕分けや介護ロボット、ICT の活用、高齢者を含めた介護人材の確保・定着、介護という仕事の魅力発信等の取組について、愛媛県と松山市が連携しながら、周知広報等を進め」るとも書かれています。
ご家族にとって知っておく価値があるのは、外から中を見る仕組みが制度として置かれていることです。グループホームのような地域密着型サービスには「運営推進会議」があり、利用者・家族・地域住民・外部有識者等から構成され、外部の視点で運営を評価する場と位置づけられています。先ほどの計画(案)には、この運営推進会議に「市職員や地域包括支援センターの職員が出席することで、評価の確認と必要な助言や指導を行い」と書かれています。
さらに同じ計画(案)では、地域密着型サービスについて松山市地域包括支援センター運営協議会での事業者ヒアリングを実施し、全サービス事業者を対象とした集団指導を年2回行うとしています。
つまり松山では、事業所の運営を見ているのは家族だけではありません。市の職員も、地域包括支援センターも、地域の方も関わる形になっています。入居を検討している段階でも、地域包括支援センターやケアマネジャーに「あの事業所の運営推進会議はどんな様子ですか」と尋ねてみることはできます。ケアマネジャーの探し方はケアマネジャーは選べる?松山での探し方にまとめています。
まとめ
大将が昔から考えていることに、「仕事」と「作業」を分ける、という物の見方があります。自分でなくてもいいこと、手段にあたるものが「作業」。自分でないといけないこと、目的にあたるものが「仕事」。作業を減らしていけば、その分だけ仕事の質を上げられるのではないか、という考え方です。
記録のIT化も、介護ロボットも、業務の仕分けも、突き詰めれば同じところに向かっていると大将は思っています。機械に任せられるところを任せて、人にしかできないところに人の手を戻す。お客様の目を見て話す時間、そばに座っている時間。そこを増やすためのものであってほしい。
人手不足という言葉は、たしかに重たいです。けれど、その言葉だけで施設を判断しなくてよいと思うんです。配置基準の意味を知り、公表されている情報を見て、見学で時間帯を区切って聞いてみる。それだけで、見えてくるものはずいぶん変わります。
大将たちが大事にしているのは「快」です。してあげているのではなく、させていただいている。その姿勢は、職員さんが余裕をもって立っていられる現場からしか生まれないと感じています。だからこそ、人の手の話は、ご家族に堂々とお答えしたいところなんです。
気になることがあれば、遠慮なく聞いてみてください。見学のご相談はいつでもお受けしています。
この記事で参照した情報
- 厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(令和6年7月12日)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_41379.html
- 公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度 介護労働実態調査 結果の概要」(令和8年7月29日)https://www.kaigo-center.or.jp/report/jittai/
- 厚生労働省「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」第2条
- 厚生労働省 社会保障審議会介護給付費分科会 第218回 資料4「認知症対応型共同生活介護」https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001113811.pdf
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/system.html
- 松山市「第9期松山市高齢者福祉計画・介護保険事業計画(案)」(令和6年1月〜2月の意見募集時に公表された案。計画期間は令和6年度〜令和8年度)https://www.city.matsuyama.ehime.jp/bosyu/9koureikaigo_iken.html